多少距離があるものの目を凝らせば訓練所での訓練風景が見えてくる。
エリオやスバル、ランスター、ルシエ。それと今日は参加しているらしいギンガ。
しかし訓練所みているとどうしても、先日のエリオとの模擬戦を思い出して顔が引きつってしまった。
結局、勝つには勝ったが非難囂々だった。特にヴィータやスバルからは大不評だった。
ダイジェストにすると
(エリオ槍で突撃→罠魔法:アンクルスネアで引っ掛ける→エリオ転ぶ→そこに大量のチェーンバインド。中に二個だけドレインバインド→エリオ、解除しようとあがくけど解除できない→そろそろ魔力切れかなあってところで降伏勧告)
……卑怯じゃないっ! 地味っていうな!
まあ「勉強になりました」と言ってこっちを見る終了後のエリオのキラキラした目に、ちょっと先輩気分に浸れて癒されたけど。
しかしそれも束の間。世の中そんなに俺には甘くないようで。
ちょいとエリオをいじめすぎたらしく、目が笑っていないフェイトとの強制訓練勃発。
願ってもいないフォトンランサーの全包囲攻撃を初体験するハメになりました。
逃げても逃げても追いつかれるし、防いでも数で押されて視覚から精神的に圧迫されるという地獄に、さっきまでのいい気分なんぞ微塵に砕かれた。
視界が、視界がフォトンランサーで埋め尽くされて……ッ!?
……コホン。
そんなことも余計な事まで思い出してしまったが、見ていて思う大部分は微笑ましさだった。
まるで自分の昔のことを思い出すというか。
あんなことやったなあ、と思わず浮かんでしまう類の笑顔。
だからかつい、このまましばらく見ていたい気持ちに駆られてしまう。
年とったなあ俺も。外見まったく変わらないが。
しかし、いつまでもそうしてるわけにもいかない。俺は俺でやることは山ほど残っているのだ。
後ろ髪を引かれながら、最後にともう一度だけ窓の外へと目を遣る。
そこに見える一生懸命に訓練を続けているスバル達をじっと見つめて……俺も頑張ろうと再び机にむかった。
* * *
――で。
「さて、どうしてこういう状態になっているのか理解できているかね? スバル・ナカジマ陸士」
「わ、わかりません」
言いながらにっこりと笑顔を浮かべる俺と、対照的に顔を強張らせるスバル。
時も一転、場所も一転してここは食堂。
既にピークは過ぎており閑散として人影はほとんどない。
そしてそのほとんどない人影の一人が俺であり、もう一人が椅子の上で正座させられているスバルである。
あとはこの様子を一歩離れた所から見ているのが彼女の仲間達と姉であるギンガ。
スバルも含め、彼女達は事態がよく理解できていないのか一様に困惑の表情を浮かべていた。
しかし、そんな視線を一身に受けながらも俺は笑顔を崩さない。
「そっか……わからないか――バル」
<いえっさー>
優しく、それでいて有無を言わさぬ声。
バルに指示を出せばすぐさまバルは己の仕事を全うする。
デバイスを経由して浮かび上がる空間ディスプレイ。
それをできるだけ拡大して、問題の箇所をわかりやすく赤でアンダーラインを引いて、にっこり笑顔を崩さないまま、言った。
「食いすぎだ、この腹ペコ娘ッ!!!」
<ぶっちぎりで食費関係の予算オーバーです。ほんとうにありが(ry>
「「「――えええええええっ!!?」」」
一斉にハモったのは驚愕の声。
しかし、事実は事実なのだ。
「ええい黙らっしゃい! 事実だ! オーバーっていうか超オーバーだ! この赤字に赤のアンダーラインがみえんのか!」
「てぃ、ティア!?」
「…………オーバーしてるわ」
「嘘っ!? で、でも何もあたしが原因だとは――!」
その事実を受け入れたくないのか、必死に無罪を主張するスバル。
……ほほう。
そこでしらを切るか、わが義妹よ。
兄が何も調べていないとでも思ったか。
そして、俺のそんな「イラッ」とした感情を読み取ったかのようなタイミングで
<はーい、そうくるだろうと思って食堂の料理長にもらった各々の摂取量データでーす。じゃーん>
バルが展開した、さっきのと重なる形で現れるもう一枚の空間ディスプレイ。
そこには一人一人の食堂でとった摂取量とその内訳である各栄養素がグラフで表示されていた。
もう一つデータが表示されているのだがその事については明言を避けたいと思う。彼女達の名誉のために。
正直、いつも基本的に大皿で頼んでるスバル達のはさすがに無理かなあと思っていたのだが、さすが料理長。
“栄養素の支配者”“Mr.カロリーコントロール”の異名は伊達じゃあない。
見せ付けられたデータに一部の女性陣が轟沈してるがそれは見なかったことにする。
「体重が」とか聞こえた気もするがきっと気のせい。
つーか、藪を突っついたらヤマタノオロチでしたとかしゃれになりません。
さて、そういうわけで
「何か申し開きはあるかな、スバル君?」
「あ、あう……」
氷の彫像よろしく硬直してるスバルに話しかける。
気持ちはわからないでもない。各種栄養バランスは神掛かったバランスだがいかんせん、量は群を抜いている。
つーか他の人のざっと2、3倍。これで太らないのはもう何かの才能としか思えない。
しかし、ここでスバルは何かに気づいたかのように体を一瞬ビクリと反応させた。
そして次の瞬間には鬼の首でもとったようにビシィ! と指を突きつけて声も高らかに言い放った。
「ぎ、ギン姉! ギン姉だって私とおなじぐらい食べてるっ!」
言うや否やギンガの顔に青筋がたったのは、どうやらスバルには見えなかったらしい。
ちなみにギンガはグラフを見せ付けられて轟沈した一人である。
知らぬ内にトラの尾を踏んだスバルの冥福は心の中で祈るとして、この得意満面のスバルにはそろそろとどめをさしてやらねばならないようだ。時間も勿体無いし。
というよりこの質問も予想済みでした。にぱー☆
「ああ、それはいいんだ。カルタス経由で108の方のギンガの給料から天引きしてるから」
「に、兄さんッ!?」
きいてない! と言う声はもちろんスルー。はっはっは、食べ過ぎる君が悪いのだよ。
なのでギンガはこの予算オーバー分は自分で補填しているので計算に元から入っていない。
したがって。
「つ、つまり」
「ああ、スバル。お前がぶっちぎりだ」
サムズアップ、そしてそのまま手をターン。
俺はバル曰く「イイ」笑顔で止めを刺した。
スバルはと言えば、己の敗北を認めたのか上半身をがくりとテーブルに落としている。
正座しながらあれをやるとは器用なヤツめ。
* * *
「うー……、じゃああたしの給料からも天引き?」
あれからしばらく机に撃沈していたスバルだったが、やがてのそのそと起き上がるとそう言った。
その顔にはなんというかどことなくどんよりしたものが張り付いている。
……かわいそうに。この後、更にギンガからの折檻という名の強制訓練がまっているというのに。
あれ、逆か?
しかしそんな事は微塵も表情には出さずに、俺は平静を装って言葉を返した。
「いや、最初はそう思ってたんだけどな。ヴィータに言ったら追加でスバルだけ訓練の密度上げてやると満面の笑顔で」
「ううぅ……」
ぐったり。再び撃沈するスバル。
まあ自業自得ということで諦めてもらおう。これで今度からはもうちょい自重してくれるだろうし。
釘を刺しておくという任務は達成した。……あとは糠に釘ではなかったことを祈りたい。
食堂でなにやら女性陣が円陣組んでヒソヒソやっているのを余所に、ひとり納得顔で俺は2、3度頷くとそのまま食堂を後にした。
釘は刺したとはいえもう一度、予算関係の調整もしなければならない。
それになにより、数日後にあるらしいホテルアグスタでのオークションの警備に行くための準備が残っていた。
なんでも今回のオークションにロストロギアが流れるかもとかなんとかで警備を請け負ったそうだ。
八神も行くとかわけのわからんこと言い出したから、それは全力で止めたが。
何も無くて招待で行くのならともかく、戦闘の可能性もあるのに前線になるかもしれない所に行くんじゃねえ。
<つーか、密輸品が表のオークションに出るわけが無いですよねー>
そしてそんな所に顔も知れてる八神とかつれてったら一発でアウトです。
高町とかフェイトもだけど、それよりもリミッター掛ってて且つ火力支援特化とかどうしろと?
つれてっても意味ないよ。むしろ後方の安全圏で指揮とってくれ。
リミッター無しならガジェット相手には八神の方がいいんだけどなあ。
まあ密輸品違法品オンリーの方は専門家にお願いしとく。その方が安全だし。
運び込みの段階で襲撃されたらアウトだがその時はその時。
さて警備の方の抑止という効果であれば高町とフェイトいれば十分すぎる。
守護騎士zと高町とフェイトがいればガジェット程度なら問題ない。
新人? 数に入れてませんが何か。
いや、まだ数回しか現場でて戦闘してないのに数に入るわけ無い。
連れて行くのは現場の空気に慣らすとかそういう目的。
確かにスキル的にも能力的にもあの4人は将来的に俺なんぞ軽く超えて強くなるだろうけど、それは将来の話であって。
数にいれるとしても4人で1人ぐらいの扱い。
訓練にも熱が入ってて、どんどん強くなっているのはわかるんだけど。
「そういう時に限ってミスるんだよなあ」
<経験談ですねえ。あー、あれは確か辺境世界で触手状の……>
やめて。お願いだから思い出させないで。ていうかその件に触れるな。
あれはほら、若かりし日の過ちというかなんというか。厨二病乙というかですね。
あの想像を絶するしっぺ返しはもう思い出したくない……。
<うひひw>
は、腹立つ……っ!
人知れず拳をギリギリと握り締める。
八神が部隊としての代表者が云々とか言うので、なんでか俺も行く羽目になったことを思い出して今度は胃がキリキリしてきた。
代表なんて高町あたりで十分なのに……つか俺にフォーマルとか似合わないんだよ。
<馬子にも衣装?>
やかましいわ!!!
――食堂を出る寸前――
ギンガ「兄さん」
ティアナ「ソウマさん」
シュウ「ん?」
ギンガ&ティアナ「あのデータ、微塵も残さず削除してくださいね♪」←笑顔とは本来(以下略)
シュウ「はっ! 命にかえてもっ」ガタガタ
<怖っ!!!>
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