そう言って俺の目の前にいるお偉いさん――ひgもといレジアス中将は口角を吊り上げるようにして笑みを浮かべた。
っていうかいつの間にか昇格してるしorz
ヤツの手元にある幾枚かの重なるように展開されているウィンドウは、恐らく俺のここ最近のデータが記載されてるのだろう。
ここからチラッと俺の顔写真みえた。眼帯してるのもある。……ピンクマーカーでの書き込みは見なかったことにした。
それに目をやりながら何度か満足気に頷いたあと口を真一文字に結び、最後に
「これからもミッドチルダの平和に尽力してくれたまえ」
と締めくくった。
うん、ここだけ見ればなるほど確かに中将にそこまで悪い印象は抱く人はあまりいないだろう。
どちらかと言えば良い上司な感じだ。
個人的に中将は嫌いだが人間誰でも褒められれば嬉しいもんで、ああ言われれば俺も悪い気はしない。
……しかし。
だがしかし!
俺は敢えて言おう!
本人は小声のつもりだったのだろうが俺の耳には確かに届いたッ。
「シュウたん……ハァハァ」
その野獣のような肉欲に満ち溢れんばかりの眼差しをむけんといてええええええええええ!?
こ、こっちみんな!!!
<リアルBL…………ある!>
ねぇよッ! あってたまるか!!!
ううう、だから来たくなかったんだここ。
髭の部屋に来るなんて想像するだけでもうだめぽ。朝、出頭命令があった時は素で
『ああ、俺、とうとう掘られるんだ……』
だったし。
しかし、俺の後ろの貞操はまだ健在なり!
朝は怨みのあまり地○少女の存在を必死こいて探したりしたが、いまこうしていられるのは貴女のおかげです。有り難うオーリスさん!
お兄さん感激だよ!
<って、ますたーより年上じゃありませんでしたオーリスさん。つか自分でお兄さんとかマジキモい>
だまらっしゃい! 多少オーバーでもそこは空気嫁……じゃない空気読め!
お前にだってわかるだろ。娘が隣にいるっつーのに今もなお、俺の下半身をなめるように見つめるヤツの視線の痛さが。
<……髭ってガチだったんですねえ。散々ますたーをおちょくってネタにしてましたが、娘がいるって知ってたので実際は一過性のものだとばかり>
俺もな……。もしかして家族関係うまくいってないんだろうか。心なしかオーリスさんの中将を見る目が汚物でもみるかのようだ。
手が胸ポケットのタバコに伸びてますよオーリスさーん。
まあ俺に被害がなければガチホモでもなんでもいいんだけど。被害を被るのは俺なのは確定してるからそうも言ってられない。
近いうちに何か対策を練らなければ――誰か身代わりに捧げる方向で。
<きっと中将は少年も好きそうですね。具体的に言うと赤い髪で突撃槍なデバイスをもってる少年が>
なんでそんなにえらく具体的なのか――しかし覚えておこう。シュウ、おぼえた。
それはともかくそろそろ本題に入ってほしい。こんな朝っぱらから呼び出したんだから用があるんだろうに。
加えて魔王陛下との対面時ほどではないけど、実際は今すぐにでも逃げたい気持ちでいっぱいなんです。
魔王陛下のときは純粋なる恐怖から。そして髭中将の場合は生理的嫌悪から。
男からのラブコールなんて、男からのラブコールなんて嬉しいはずNEEEEEEE!!!
……と、そんな俺の心情を察したのかそれとも己の父親の惨状をみてられなくなったのか。
側に控えていたオーリスさんが妄想世界にどっぷり浸かっていた中将に声をかけた。
「(このホモデブが。)……中将、そろそろ本題に」
「――はっ。う、うむ。そうだな」
……なんでかしらんが聞こえてきたオーリスさんの呟きはスルーしよう。うん。
娘の声に正気を取り戻した中将は咳払いひとつで先ほどのどろりとした空気を霧散させた。この辺はさすが、といいたいところだけど……
<むしろ抑え込んでる分、ギラつきは悪化してますねー。ますたー、愛されてるぅ☆>
だめじゃん! つかいらないから!?
そんな愛は粉々に砕いて廃棄物処理場に捨ててくれるわッ。リサイクルするのすらおぞましい。あと語尾の☆つけるな、ぶっちゃけサムい。
<サムい!?>
ゆあ、しょっく!
そんな風なバルの声の様子に一矢報いたと内心ガッツポーズとった俺が中将に視線を戻すのと、中将が口を開いたのはまったくの同時だった。
勿論、その際に視線が合わないようにするのを忘れちゃいないゼ。
「まったくもって、まったくもって遺憾ではあるのだが――」
そう言いながらの表情が本当に忌々し気だったことから、俺の中の不安感が思いっきり煽られる。
いままでも十二分に散々だったのに、今度はいったい何させようってのか。
そしてどうでもいいが髭、お前の視線のが忌々しい。
……うう、やだなあ。逃げたいなあ……。
<怯えたチワワのように震えながら、ますたーは髭の次の言葉をまつのであったー>
え、あれ!? 割り込まれた!?
というわけでやってきましたベルカ自治領。
ミッドチルダ北部なんて滅多に足を運ばないからちょっと楽しい。
今回、俺が用があるのはベルカ自治領内の聖王教会本部。来る途中でかった「RURUBU」によると観光地としても有名なのだそうだが。
<はー。すごいですね>
「ほんとにな」
ガイドブックに偽りなし。さすが「RURUBU」。
景観もさることながら、教会そのものも凄いとしかいいようがない。
なんというか、学生時代に教科書の中でみたような中世時代の建築物のような装いなのだ。サクラ○ファミ○アとかそんな感じ。
装飾も豪華とまではいかないまでも華美で、職人の丁寧な仕事っぷりがうかがえる。
……まあ知識に乏しい俺ではこのくらいの表現しかできないだけとも言う。
感心しながら石段をあがっていくと教会の扉の前に一人の女の人の姿があった。
遠目でもそうだとわかったのは彼女の身に着けている服が修道女の服だったから。
純正シスターなんてはじめてみたよ。
<ますたーが言うと、なんだかいやらしい意味にしかきこえないのはなんでだろう。純正とかの件が特に>
「セメント発言再び!?」
お、俺はただほんとにシスターさんってのを初めて見たからああいっただけなのに……。
バルの言葉の刃にずたずたにされながらそれでもふらつく足でよろよろと石段を登っていく。
おぼえてろよバル。貴様が粗大ゴミにすぎんことを後で十二分に理解させてやる!
そして、そのまま石段を登りきり会話ができるような距離まで近付くと、シスターの方も俺のことには気付いていたらしく先に一礼された。
俺もあわてて一礼で返し、お互いに顔をあげる。
「シャッハ・ヌエラと申します。シュウ・ソウマ様でお間違いないでしょうか?」
「あ、はい。シュウ・ソウマ二等陸尉です。聖王教会からの要請により出向しました」
「はい。それではご案内しますので」
そう言ってシャッハさんは扉を開け、中へと進んでいった。
俺も遅れないように付いていく。
教会の中はやはりというか、当たり前というか、とても静かだった。
今まで小うるさい部隊という枠組みの中で生活してきた俺としてはこの静かさはひさしぶりだ。
うんうん、心地良い感じ。
<それにしても、なんであんな要請がきたんでしょうねえ?>
「きくな。俺にわかるわけないだろ」
歩みは止めず、ポツポツと言葉を漏らすバルに俺もシャッハさんには聞こえないくらいの声で言葉をかえした。
まあバルがそう言うのもわからないでもない。
なにせ今回の件はほんとに「はあ?」と首を傾げんばかりの要請だったからだ。
なんでも教会のお偉いさん方の誰かがちょっとした機会に俺の戦闘データをみることがあったらしく。
その時に俺の保持魔導師ランクをオーバーしている防御魔法の防御能力にこう、なにか感ずるところがあったそうで。
「なんだっけ? えーと……」
<“聖王の鎧”ですよ。確か>
そう、それだ。そんな名前の稀少技能だか先天固有技能が俺にあるんじゃないかー、と踏んだらしい。
ちなみにそれを聞いたときの俺とバルの感想は
『ありえねー』
で見事に一致した。
……だってちょっと考えれば誰にでもそれはありえんということがわかるんだもん。
“聖王の鎧”はなんでも古代ベルカの王族のみが保有していた技能なんだそうだけど。
するとあれか、俺は300年前の人間だとでも言うつもりなのだろうか。
「俺はそこまで歳くってねぇ!」
<そこかよ!?>
それに中将情報によると聖王の血統は“カイゼル・ファルベ”って名前の虹色の魔力光をもつらしいし。
残念ながら俺の魔力光は藍色だ。これだけでもう俺がそのお偉いさんの期待からは大いに外れてる証明になるだろうに。
――まあ、そんな細かい理屈ぬきにしても“ありえない事”だという証明は容易なのだ。
なぜなら。
『俺に(ますたーに)そんな主人公イベントが起きるだろうか。いや、起きるわけが無い!!!』
これで十分だよ! っていうかそんな素敵イベントがおきるようなら人生ならこんな苦労はしてないわッ。
……べ、別に言ってて泣きたくなってきたとかそんなことないんだから……!
「ではこれから騎士カリムに……シュウ陸尉? どうかしましたか?」
「あ、いやはい。おっけーっす。なんでもないっす」
よく通るシャッハさんの声で我に返った。呆っとしてたらいつの間にか着いていたらしい。
とりあえずこちらを振り向いたままのシャッハさんに言葉と首肯で問題ないことを示し、それを確認したあとノックとともにシャッハさんの手で目の前のドアが開けられた。
そのまま先導される形で入っていくと、其処にいたのは長い金髪を揺らす女性の姿。
っていうかさ……
<うーん。これはまた新しいタイプの美人さんですね。深窓のご令嬢ってかんじ>
「ほんとに美人さん多いな、ミッドチルダ」
今までから見てもやけに美人・美少女率が高い気がする。男の方も美少年・美青年率たけーし。
遺伝子に差でもあるんだろうか。……ど、どうせ俺はふつーレベルですよ!!!
そんなこんなでまた鬱スイッチ入って思考の世界にダイブした俺だったが、しかしそれは女性特有の高い声によってすぐさま破壊されることになる。
「……あの」
「ん?」
「その……ありがとう、ございます」
――まて、何が起きた。なんでカリムさんがいきなり頬染めてんだ!?
よし落ち着け。くーるになれ。COOLになるんだ俺。
あ、あれか? また念話にするの忘れたの俺? もしかしてさっきの台詞駄々漏れ?
…………。
なるほど。きっとさっきまでと同じ感覚でバルの言葉にかえしちゃったのか。そりゃこの距離、立ち位置じゃ聞こえるわな。
にしてもカリムさんは随分と純なんだなあ。美人っていわれただけで赤くなちゃうなんてさ! HAHAHA!
……これは事故。事故なんです。意図的じゃないんです。不慮の事故なんですよ。どうしようもなかったんです。
だからお願いですからそんな人を殺せそうな表情はひっこめてくださいよシャッハさん!?
デバイスも構えないで!? いやあああああブチ撒けられちゃぅぅううううう!!!
<こ、こわっ!? めっちゃこわっ!!! ますたーも還ってきてぇええ!?>
「シュウさん!? だ、大丈夫ですか!?」
「……だ、大丈夫です。すいません、なんでもないです。はい」
「そ、そうですか? とりあえず詳しいお話はお茶でもしながらにしましょう。シャッハ、お願いできる?」
「――はい。わかりました」
カリムさんの言葉に一礼し、優雅に部屋を後にするシャッハさん。
しかし俺とすれ違う際にピンポイントで強烈な殺気をたたきこんでいくことも忘れていない。
意訳すると「カリムに妙な真似しやがったらブチ殺すぞ」、と。そういうことですか。そうですか。
ガクガクブルブルブルプルプル……!
ああ、異世界にいる父さん母さん。
ガチホモのいない管理局から一時的に出て、しばらくは平穏に暮らせると思っていましたがあまかったようです。
俺はまたいらん死亡フラグを踏んでしまったようです。
誰でもいいです、一週間でいいから俺に安息の日々をください……。
<うふふ。これでここでもまた刺激的な毎日が送れそうです。 計 画 ど お り >
な、なにいいいいぃいいい!?
……うう。紅茶がおいしい……ぐすん。
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