四角く区切られた窓から見えるそれは何処までも続く蒼だった。
時刻はまだ昼に差し掛かるかどうかといったところだが、つい思いを馳せてしまうのは黄昏時。
夜と昼との狭間。
辺り一面は橙に染め上げられて、現実はその一時のみ幻実に変わる。
そんな現実と虚構に彩られた街に、俺は…………
<ますたー、いい加減帰ってきてくださーい>
現実逃避してましたよ悪いかうわああぁぁぁああん!
「うぅううう」
<ますたー? 大丈夫ですかー。発汗上昇してますがー>
……このっ、能天気な声で喋りよってからに! 誰のせいだと思ってんだ誰のせいだとッ。
<いいじゃないですか。デートですよデート。それもこんな美少女と!>
無 理。
俺が攻撃魔法でまともなダメージ与えるくらい無理。
トラウマの原因なる人とのデートなんて、高町には悪いが拷問としかorz
しかも今現在俺がいる場所は地上3000m強の空のど真ん中で飛行中のヘリの中。……これのいったいどこがデートなんだと小一時間問い詰めたい。
まあ小一時間もこんな密室に一緒にいたら間違いなく気絶するが。
<情けない……。たかがトラウマごときサクッと治しなさい。主に根性で>
「謝れ! お前全国のトラウマ持ちの方々に謝れっ」
そんな簡単に治癒したら誰も苦労せんわ!
――まったくこれだから百均は。
<!? ますたーこそ日々粉骨砕身してる百円均一の業者の方々に謝れっ! ていうか私百均じゃねぇッ>
知らんなあ(´∀`)見かけが百均ぽいじゃあないか。
……よし。つい声に出ちまったがとりあえず高町は気付いてないようだ。
<うう……百均じゃない……百均じゃないんですぅ……!>
ネガティブモード入ったか。フフフ
計 画 ど お り。
これでしばらくは静かになるだろ。最近ようやくこいつの御しかたが分かってきたぜ。
<………コレデカッタトオモウナヨ………>
――うん。今のは幻聴だ。きっと、きっとそうに違いないんだ……っ。
さ、さて。そろそろ本題に入らねば。
俺はさっきからずっと気になっていたことを聞かねばならない。他ならぬ、この目の前に鎮座まします魔王陛下に。
俺は、どうしても聞かなくてはならないんだ。
……例え、その答えが、どんなに辛いものであったとしても。
だって。後悔だけは、したくないから。
大きく息を吸って、はいて。心臓と脳に十分に酸素を供給し、同時に精神を整える。
イメージするのは大樹。
決してして揺るがず、しなやかに受け止める大樹を俺はイメージする。
「た、たたたたたたたたた高町ひゃん!」
ってさっそく倒壊しそうだよ俺!?
「え? なにかな?」
っく!
が、がんばれ俺! 超がんばれ俺! 根性だ俺! あの師匠のしごきを思いだせっ!
―――よ、よし! いくぞっ!
「な、なんでバリアジャケット着用していらっしゃるのでしょうか!!?」
・
・
・
・
・
………あ、あれ? おかしい。返答がない。
恐る恐る顔をあげてみると、なんだか恥ずかしがってる高町の姿がある。
Why?
そんな風に俺の頭の中を疑問符が駆け巡ってしばらくすると、もごもごと口を動かしながら高町は話し出した。
「えっとね、私、初めて魔法をつかって空が飛べたときすっごく嬉しかったし楽しかったんだ。それはいまでも変わらなくて、飛ぶのが好きで。私の所属してる、臨時だけど今はシュウ君も所属してる航空戦技教導隊のみんなもそうで………」
なんというか、いまいち要領を得ないんだが……。
まあ、最後まで聞くか。しかしできるだけはやくしてくれないと、俺のカラータイマーは既にレッドゾーンだぞ。
「だからね、その……私と同じように空をシュウ君も好きになってくれれば嬉しいなって思って、好きなものを共有できればもっと仲良くなれるっておもって………だから、今日はシュウ君と空を飛びたいって思って誘ったの」
「……………」
それで全て言い終わったのか、高町は口を閉ざした。やっぱり自分で言ってては恥ずかしかったのだろうほんのりと桜色に頬を染めながら。
……あー。だけどな、高町。きっとお前は恥ずかしがる観点を間違ってるぞ。
<そうですねー。きっとなのはさんは気付いてないですね、絶対。>
ああ、俺もそう思う。きっと、絶対、間違いなく。
「あ、あれれ? な、なにかのこの微妙な空気!?」
じとーっとした俺とバルの発する気配にようやく気付いたのか、わたわたと慌てだした。
つかきっとレイジングハートあたりはわかってるんだろうに。忠告しなくてよかったのか?今更だけど。
俺だったらきっと恥ずかし死ぬぞ。
<とか言いつつニヤニヤしてますねえwそんなますたーが――――すごくキモい>
「一言も二言もよけいだっ! ………コホン。高町つかぬことを伺うが」
「う、うん」
「それは、遠まわしな告白か?」
あ。固まった。
<固まりましたねえ>
うむ。
というかさっきの高町の発言はどー解釈してもそうとしかとれんのだが。
少なくとも男相手に言ったら世の男性の半分は誤解するぞ。多分。
しかもこの状況下で言うと。
密室に二人っきりとは、なんとも暗示的ではないだろうか。
「ち、ちちちちちちがうちがうちがう!? 違うよ!? そういう意味じゃなくってーーーーーー!!!」
……あー、すがすがしいなあ。俺の中からゆっくりと魔王が浄化されていくようだ。
視界の端でいまだ高町が必死に弁明しているがそんなものは右から左。
魔王もやはりお年頃の少女だったんだな。なんか癒されるー……。
<ますたー、すっげぇいいカオしてますよ。ギガ黒いっす>
うふふ。よいよい。そちの発言はきかなかったことにしてやろう。朕は今とても心地よい……。
ああ、勿論俺はそんな誤解はしていない。
だいたい高町と会ってほんの二、三日(TV画面越しにはもっと前からだが)なのに恋が芽生えるなんて、それなんてエロゲ? な感じだ。
しかし黙っているのはその方がおもしろいからに他ならない。
人生に潤いって、必要だよね。
「うぅぅううう! ほ、ほらもう指定ポイントについたよっ。いこっ!」
いまだ頬を染めたままの高町は自分の発言を誤魔化そうと強引に俺の手を掴んでぐいぐいと引っ張っていく。
ふふふ、愛いやつめ。きっと自分がからかわれてるのも半ばわかってるんだろうけど、それを上回るくらいの恥ずかしさなんだろう。
まあいいか。そろそろ開放してやろう。
あんまりひっぱると魔王化しかねないし、ちょっとでも俺のトラウマは癒されたんだからよしとするか。
いつの間にか開いたハッチからの風を受けながら俺は高町にむかって口を開こうとして――
「ん……? ハッチからの、風………?」
――全身が引き攣るのを感じた。具体的に言うと生命の危機を。
……あれ? 俺、BJどころか、デバイスって起動させたっけ……?
「ま、待て高町っ!? 全力でまてっ!!?」
「やだっ――いっくよー! テイク、オーーーーフ!!!」
「テイクオフじゃねええええええええええええええええええ!!!」
な、懐かしいなこの重力に引きずられる感覚ーーーーーー!
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