2009.09.02.Wed
――あの事件、通称JS事件から幾許か時間が過ぎた。
六課自体も既に解体され、元いた部署に戻ったやつもいれば新しい部署に移ったやつもいる。
しかし各言う俺はというと、あいにくそのどちらでもなかった。
暇を出されたといえばわかるだろうか。
あの事件は俺にとっても色々ありすぎた事件だった。正直言えばさっさと過去の事にしてしまいたい。
まあ、しかし世の中そんなに甘くはないわけで。
そうなるまでにはまだまだ時間がかかるというのが現実だった。
実際に地上はもちろんのこと、本局の偉い人たちからも「ほとぼりさめるまで局に近付くんじゃねえ」と厳命されている。
そのせいで今は働かずして給料貰えるという素敵な現状なのだが、今まで働いて給料貰っていた身からするとなんだかなあといった感が否めないのも確かだった。
そんなことを目覚めた寝床の上でぼんやりと考えていると、ふいに違和感を感じた。
目線をそこにやれば、そこだけ布団がもこっと膨らんでいて、もぞもぞと動いている。
「……はあ」
最初は死ぬほど驚いた“コレ”も、もう慣れたものだった。
こうやって人は慣れていくのだろうか、そんなどうでもよさ気な思考が頭を過ぎりつつ、慣れた手つきで布団をめくり上げる。
「んー……んう?」
突然差し込んだ光にへっぽこな声で呻きながら、俺を抱き枕よろしく抱きついていた金色のソレはやがてゆるゆると顔を上げた。
未だ眠たそうだった瞳は俺を認識するなりぱちりと開き、途端に表情をほにゃっとさせる。
俺を見上げる赤と翠のヘテロクロミア。
あの事件が過去の事にならない原因その1。
善いのか悪いのか、俺との深いつながりを持つ存在。
そんな俺の内心など露知らず――『聖王の器』ヴィヴィオは表情はそのままに、布団の上、更には俺の上だというのに礼儀正しく一礼する。
「……おはよう、ぱぱ!」
「…………おはよう。とりあえずそこから降りろ。話はそれからだ」
<ヴィヴィオちゃん、やふー>
そうして挨拶するなり、“遺伝子学上、正真正銘俺の娘である”この幼女は、笑顔のまま俺に再び抱きつくのだった。
遺伝子学上とは言ったものの、じゃあほんとに親子なのと聞かれれば答えはNOである。
ヴィヴィオはあの事件の首謀者であるマッドこと、ドクター・スカリエッティの計画によって生まれ出でた過去に在りし聖王のクローン体だ。
スカはその計画のため、聖遺物である聖骸布を手に入れ、そこに付着した聖王のDNAからまんま復元させようとしたわけだが、事はそうそう巧くいかなかった。
単純な話で、そのDNAが予想以上に劣化していたのだ。
考えてみれば当然である。
元々復元も考えて、専用の厳重な保管の元にあったのならばまだしも、あくまでも聖王の遺品扱いでの保管にすぎない。
そりゃ300年も前のDNAなんぞ劣化しているに決まっていた。
強引に復元してみても体の一部が欠損していたり、テロメアが極端に短くてあっという間に老化してしまったりと問題だらけ。
それでもなんとか復元しようと研究者達が頑張って、その結果なぜか聖骸布に付着していた聖王以外の遺伝子をかけあわせたところ巧くいってしまった。
んでそれが俺のDNAだったと、まあそういうことだった。
当然「なんでそんなとこに!?」と思ったがなんだか、それっぽいとこに迷い込んで戦闘もしたのを思い出した。
あれがフラグだなんてきづかねーよ!
<ますたー! 味噌汁、みそしる!>
「ぱぱ、こぼれそうだよ!」
「うおっ!?」
俺の感情が伝播したのか、腕が知らず知らずの内に震えていたらしく、我に返ればそこには椀の中で荒れ狂う味噌汁。
……ちなみにうちの朝食は古き良き和食である。
それはさておき、そんな状態の味噌汁を俺は無意識に急停止をかけようとしたらしく、そして
「あっぢーーーー!? 豆腐が! 豆腐があああああ!!!」
<期待を裏切らない、そんなますたーが 大 好 物 です>
ものの見事にぶちまけました。
「ぱぱ! は、はい! これ!」
「おお……って雑巾もってくるやつがあるかあ! 布巾、台所の布巾もってこい!」
「ふえ? でもバルちゃんがこれって」
「……ほう、バルが、ね」
<……あの、ますたー? 腕に豆腐のっけたままどこへって、だめ! それはだめ! 煮えちゃう! 素敵に沸騰してrアッーーーーー!>
「ヴィヴィオ、コレが布巾だからな? とりあえずその雑巾は戻してきて手を洗いなさい。」
「う、うん」
<ふ、フフ……ますたーも段々に父親っぽく……あれ、なんで、褒めたよ!? 褒めたのになんで蓋s>
「洗ってきたよー。あれ?バルちゃんは?」
「湯治にいってくるとさ」
「とーじ?」
煮えたぎるやかんの中にな。
不思議そうに首をかしげるヴィヴィオには曖昧に笑むことで誤魔化した。
とりあえず悪は滅んだ。もう何度目かもうわからないが気にしたら負けだと思っている。
普段から何かとヴィヴィオに悪影響及ぼしそうな事教えるし……。そろそろ本気で高町の魔王砲の餌食にした方がいいかもしれない。
リミッター無しの全力全壊ならもしかすると、溶鉱炉に落としても無傷な彼奴でもあるいは。
とまあ、こんな感じにバルもバルで何も変わっていない。むしろフリーダムっぷりが悪化していて大変困っている。
俺も俺でヴィヴィオがいる生活に随分馴染んだ。
濃密だったあの事件で変わったこともあるものの、俺個人としては俺のパーソナルスペースにヴィヴィオの定位置ができたくらい。
残っている問題も大小あるが、自力でどうにかできるものはほとんど無い。
……結局、なるようにしかならないんだろうなあ。
――と。
「……ヴィヴィオ、ご飯は?」
「おわったー。ごちそうさまでした」
「俺は、まだなんだが」
「…………だめ?」
くりくりと愛らしい瞳で、いつの間に移動したのか、俺の膝の上というか間に座りながら見上げてくるヴィヴィオ。
最近こうやっておねだりする事が多くなった気がする。
身長差とか考えれば自然と上目遣いになるのは仕方がない事だとは思うんだが、こうすればなんでも許されるんじゃないかと思われても困る。
なんでここはビシィッ!としなきゃならないとは思うんだが……結局、俺は黙ってヴィヴィオを撫でてしまうわけで。
「♪」
何が嬉しいのかべたーっとへばりついてくるヴィヴィオ。お前はコアラか。
懐きっぷりは当初からすごかったが、最近さらに増している気がしてならない。
無意識に遺伝子間の繋がりを感じているのか、なのはやフェイト以上に俺へは無防備だった。
ソレはさておき、さっきみたいに教育に~とか考えてしまうあたりバルの言うとおり父親っぽくなってきたのかな、と思うことはある。
しっかし、まだ結婚もしていないのにそう言われると正直へこむ……orz
結婚できるのかなあ俺。
そんなちょとだけ重要なことを考えつつも、とりあえず今日すべきことへと思考を変える。
とりあえず、目の前の問題からまずは解決しよう。
「ヴィヴィオ、そろそろ準備するぞー。教会行く」
「はーい」
ヴィヴィオの今後について、という名の問題を。
<ま、ますたぁ……もぅかんにんしてええええええ……>
「あ、忘れてた」
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しかし各言う俺はというと、あいにくそのどちらでもなかった。
暇を出されたといえばわかるだろうか。
あの事件は俺にとっても色々ありすぎた事件だった。正直言えばさっさと過去の事にしてしまいたい。
まあ、しかし世の中そんなに甘くはないわけで。
そうなるまでにはまだまだ時間がかかるというのが現実だった。
実際に地上はもちろんのこと、本局の偉い人たちからも「ほとぼりさめるまで局に近付くんじゃねえ」と厳命されている。
そのせいで今は働かずして給料貰えるという素敵な現状なのだが、今まで働いて給料貰っていた身からするとなんだかなあといった感が否めないのも確かだった。
そんなことを目覚めた寝床の上でぼんやりと考えていると、ふいに違和感を感じた。
目線をそこにやれば、そこだけ布団がもこっと膨らんでいて、もぞもぞと動いている。
「……はあ」
最初は死ぬほど驚いた“コレ”も、もう慣れたものだった。
こうやって人は慣れていくのだろうか、そんなどうでもよさ気な思考が頭を過ぎりつつ、慣れた手つきで布団をめくり上げる。
「んー……んう?」
突然差し込んだ光にへっぽこな声で呻きながら、俺を抱き枕よろしく抱きついていた金色のソレはやがてゆるゆると顔を上げた。
未だ眠たそうだった瞳は俺を認識するなりぱちりと開き、途端に表情をほにゃっとさせる。
俺を見上げる赤と翠のヘテロクロミア。
あの事件が過去の事にならない原因その1。
善いのか悪いのか、俺との深いつながりを持つ存在。
そんな俺の内心など露知らず――『聖王の器』ヴィヴィオは表情はそのままに、布団の上、更には俺の上だというのに礼儀正しく一礼する。
「……おはよう、ぱぱ!」
「…………おはよう。とりあえずそこから降りろ。話はそれからだ」
<ヴィヴィオちゃん、やふー>
そうして挨拶するなり、“遺伝子学上、正真正銘俺の娘である”この幼女は、笑顔のまま俺に再び抱きつくのだった。
遺伝子学上とは言ったものの、じゃあほんとに親子なのと聞かれれば答えはNOである。
ヴィヴィオはあの事件の首謀者であるマッドこと、ドクター・スカリエッティの計画によって生まれ出でた過去に在りし聖王のクローン体だ。
スカはその計画のため、聖遺物である聖骸布を手に入れ、そこに付着した聖王のDNAからまんま復元させようとしたわけだが、事はそうそう巧くいかなかった。
単純な話で、そのDNAが予想以上に劣化していたのだ。
考えてみれば当然である。
元々復元も考えて、専用の厳重な保管の元にあったのならばまだしも、あくまでも聖王の遺品扱いでの保管にすぎない。
そりゃ300年も前のDNAなんぞ劣化しているに決まっていた。
強引に復元してみても体の一部が欠損していたり、テロメアが極端に短くてあっという間に老化してしまったりと問題だらけ。
それでもなんとか復元しようと研究者達が頑張って、その結果なぜか聖骸布に付着していた聖王以外の遺伝子をかけあわせたところ巧くいってしまった。
んでそれが俺のDNAだったと、まあそういうことだった。
当然「なんでそんなとこに!?」と思ったがなんだか、それっぽいとこに迷い込んで戦闘もしたのを思い出した。
あれがフラグだなんてきづかねーよ!
<ますたー! 味噌汁、みそしる!>
「ぱぱ、こぼれそうだよ!」
「うおっ!?」
俺の感情が伝播したのか、腕が知らず知らずの内に震えていたらしく、我に返ればそこには椀の中で荒れ狂う味噌汁。
……ちなみにうちの朝食は古き良き和食である。
それはさておき、そんな状態の味噌汁を俺は無意識に急停止をかけようとしたらしく、そして
「あっぢーーーー!? 豆腐が! 豆腐があああああ!!!」
<期待を裏切らない、そんなますたーが 大 好 物 です>
ものの見事にぶちまけました。
「ぱぱ! は、はい! これ!」
「おお……って雑巾もってくるやつがあるかあ! 布巾、台所の布巾もってこい!」
「ふえ? でもバルちゃんがこれって」
「……ほう、バルが、ね」
<……あの、ますたー? 腕に豆腐のっけたままどこへって、だめ! それはだめ! 煮えちゃう! 素敵に沸騰してrアッーーーーー!>
「ヴィヴィオ、コレが布巾だからな? とりあえずその雑巾は戻してきて手を洗いなさい。」
「う、うん」
<ふ、フフ……ますたーも段々に父親っぽく……あれ、なんで、褒めたよ!? 褒めたのになんで蓋s>
「洗ってきたよー。あれ?バルちゃんは?」
「湯治にいってくるとさ」
「とーじ?」
煮えたぎるやかんの中にな。
不思議そうに首をかしげるヴィヴィオには曖昧に笑むことで誤魔化した。
とりあえず悪は滅んだ。もう何度目かもうわからないが気にしたら負けだと思っている。
普段から何かとヴィヴィオに悪影響及ぼしそうな事教えるし……。そろそろ本気で高町の魔王砲の餌食にした方がいいかもしれない。
リミッター無しの全力全壊ならもしかすると、溶鉱炉に落としても無傷な彼奴でもあるいは。
とまあ、こんな感じにバルもバルで何も変わっていない。むしろフリーダムっぷりが悪化していて大変困っている。
俺も俺でヴィヴィオがいる生活に随分馴染んだ。
濃密だったあの事件で変わったこともあるものの、俺個人としては俺のパーソナルスペースにヴィヴィオの定位置ができたくらい。
残っている問題も大小あるが、自力でどうにかできるものはほとんど無い。
……結局、なるようにしかならないんだろうなあ。
――と。
「……ヴィヴィオ、ご飯は?」
「おわったー。ごちそうさまでした」
「俺は、まだなんだが」
「…………だめ?」
くりくりと愛らしい瞳で、いつの間に移動したのか、俺の膝の上というか間に座りながら見上げてくるヴィヴィオ。
最近こうやっておねだりする事が多くなった気がする。
身長差とか考えれば自然と上目遣いになるのは仕方がない事だとは思うんだが、こうすればなんでも許されるんじゃないかと思われても困る。
なんでここはビシィッ!としなきゃならないとは思うんだが……結局、俺は黙ってヴィヴィオを撫でてしまうわけで。
「♪」
何が嬉しいのかべたーっとへばりついてくるヴィヴィオ。お前はコアラか。
懐きっぷりは当初からすごかったが、最近さらに増している気がしてならない。
無意識に遺伝子間の繋がりを感じているのか、なのはやフェイト以上に俺へは無防備だった。
ソレはさておき、さっきみたいに教育に~とか考えてしまうあたりバルの言うとおり父親っぽくなってきたのかな、と思うことはある。
しっかし、まだ結婚もしていないのにそう言われると正直へこむ……orz
結婚できるのかなあ俺。
そんなちょとだけ重要なことを考えつつも、とりあえず今日すべきことへと思考を変える。
とりあえず、目の前の問題からまずは解決しよう。
「ヴィヴィオ、そろそろ準備するぞー。教会行く」
「はーい」
ヴィヴィオの今後について、という名の問題を。
<ま、ますたぁ……もぅかんにんしてええええええ……>
「あ、忘れてた」
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